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試しに後ろに振り返る。
するとなんと、先刻までは確かに誰も居なかったハズの空間に中年…だろうか、立派なお腹をした人が立っていた。
「な…いつの間に…」
ビビった。
もう口から心臓が出そうなくらいにビビった。
「先刻からずっといらっしゃいましたよ。
付け加えるなら『お客様』よりも先にお越しになられた方です。」
また怖い事をサラッと言う。
初めに入った時に散々確認したハズなのに…
まぁそれを言えばこの『男』も同じになるのだが…
それに辺りをよくよく見回せば若い女性や子供、老若男女問わず結構な人数がいるじゃないか。
それでもこんなに静かなのは皆がこぞってそれぞれ本を読んでいるからなのだろう。
図書館だからあるといえばあるのかもしれないが、その光景は異質だった。
どうなっているんだ?
この人達、どうやってここに来たんだ?
クスリと笑い声すらせずにまるで静止画のようだ。
「『この人達』何を読んでるんですか?」
当然の疑問だ。
「この『お客様』方ですか?
それは勿論、読書をなさっているのですよ。」
そして当然の答えだ。
聞きたいのはそういう話では無いのだが…
だがただ読書してるからといってこんな状態になるものではない。
「いや、そういう事を聞いたのではなく。」
「あの本はそれぞれ、各『お客様』達の『生きた証』が現れているのです。」
生きた証?
それが本になっている?
…ますます分からない。
試しにその割腹の良い中年に近づき、さり気なく中身を覗き見てみる。
「……?」
真っ白だ。
何も書かれていない白紙の古びた本をただ黙って微笑んで見ている。
内心ゾッとしながら中年の元を離れる。
「何で何も書かれてないものを…」
---ドンっ!
女性にぶつかる、「あっ!」と思い振り返ると目に入ったのは床に落ちた白紙の書物。
また白紙!?
ゆっくりとした動作で本を拾い、女性はまた書物に目を落とした。
気付けば後ろに男が立っていた。
「何も見えませんでしたか?」
僕は言葉もない。
「当然でしょうね。
何も書かれてはいませんから。
しかし書かれてはいませんが、映されてはいます。」
また謎かけか。
「その人生を精一杯生きた当人にしか、生きた証は見えないものです。」
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