君の名前はサブロー

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 春はあけぼの。  何千年時が経とうとも、春の陽気が眠気を誘うのは変わらない気がする。あたしは春の夜明けを見る事なく死ぬのかもしれないな。  だって春は、冬より尚一層、布団が恋しい季節だもの。  休み明けの月曜日は、いつもより30分目覚ましを早めに設定する。  そして30分後のいつもの時間、もう一度鳴るようにしておく。  この30分、布団の中で夢現に過ごすのがたまらなく好き。  ピピピ……  ああ、もう起きる時間。  残念と思いつつ、気怠い体を無理やり起こし、戦闘服に袖を通す。  一つの隙も見当たらないようにフルメイク。流石につけまつげはつけないけれど、派手じゃなく、地味じゃなく……会社の重役を引き立てる女性を作り上げるのは難しい。  「いってきます」  今日もまた、誰もいない部屋にごあいさつ。小さな頃から欠かさず行ってきた習慣は、大人になった今でも辞めることなく続けている。  お世辞にも良い母親だったとは言えないけれど、きちんと挨拶が出来る子供に育ててくれたことには感謝しているから。
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