序章 黙示録 Apocalypse

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2000年1月1日。 その日、日本の首都東京はいつも通りの元旦を迎えていた。 朝早くから目覚め始めた多くの人々が正月だと言うのに街へ足を運び、東京は活気に包まれていた。 折しも昨年の終わりに大陸から流れこんできた寒波が列島を包みこんでいたが、今日元旦の空はそれを忘れさせてくれるように抜けるような青空が広がり、冬の柔らかな日差しが暖かく降り注いでいる。 それでもやはり寒いのだろうか。 俺の前に立っていたカップル――晴れ着姿の女の人――、が寒そうに隣の彼氏にしがみ着いた。 「う~。寒い……」 つい寒さが口をついて出る。 と、ポンと頭に柔らかな手が乗せられた。 「大丈夫か?寒いか?」 見上げると父の優しい眼差しが俺を見下ろしていた。 「うん!大丈夫だよ父さん!」 「そうか。でもやせ我慢はするなよ。正月早々風邪引いたら大変だからな」 「うん!」 そういうと父は俺の首に巻かれたマフラーを改めて巻き直した。 「でもこんなにならぶとはな~」 やや呆れたように父が呟く。 その目の前には初詣の為の長蛇の列が並んでいた。 「並んでからどのくらいたったの?」 「う~ん。だいたい1時間くらいじゃないか?」 その声を聞きながらやや前方をひとしきり眺め、俺は少々、いや、かなり退屈しながら、その抜けるような青空を見上げた。 もう並んでから1時間か……。 父がこの都内にある有名な神社に初詣に行こうと俺を誘ったのは今朝の6時だった。 初夢なんて目出度い物を見ることなく爆睡していた俺を叩き起こし、朝食の雑煮を食わすと、珍しく大張り切りの父は俺を引っ張って、この長い蛇の尻尾に加わったのだ。 母さんも多分に呆れてたっけ……。 電車に揺られてこの神社まで来たのはちょうど11時頃だったから、今は12時くらいだろうか。 とりとめのない会話をしながら、父と俺は石畳の長い参道を静しずと進み、本殿へと近付く。 脇では俺より小さな小学生がはしゃいだ声をあげ、斜め前では肥った中年のおじさんがその太鼓腹を揺すって寒さに震えていた。
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