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政治、経済、インフラに至るまで全てを消滅させられた各国を襲ったのはそれだけではなかった。
その時、日本は首都消滅の惨事に遭ってもその人口の大部分は郊外に移っていた。
だがその災厄を免れた郊外に住む住人たちを“ある存在”が襲った。
それは災厄を確認に来た警官を一瞬で細切れに引き裂き、集まった野次馬たちをまるでゴミクズのように焼き付くした。
記録では“それ”により日本だけでさらに5万人が死亡。
世界中で合わせれば数億人が虐殺された。
“それ”の正体――それは新旧の聖書に記され、神の御使いとして知られる者―――。
“天使”だった。
悪い冗談だ――。
世界中で愛だのなんだのと言われていた存在が、たった1日で恐怖すべき対象となったんだから……。
俺が学校なんかで習った天使についての記述は、旧約聖書や新訳聖書なんかに出てくる昔のマヨネーズのキャラクターみたいな愛らしい存在じゃない……。
写真で見る限りそいつは明らかに不気味な存在だった。
背中に生えた純白の翼はまだいい。
不気味なのはのっぺりとした翼と同じ純白の身体に、やや縦長の頭。
そして顔に被せられた身体と同じ純白の仮面――。
そのどれもが生理的な嫌悪感を芽生えさせ、ある種の禍々しさを感じさせる。
そいつらはまるで猿のようにダラリと手を垂らし背中を丸めて徘徊し、手に持った独特な形状の槍で住民達を虐殺した。
その不気味な殺戮者に対し、地元警察も必死に応戦し拳銃を発砲。
鉛玉をありったけ叩き込んだらしいが結果はすでに見えていた。
それから約5時間後、首都機能を関西に移した日本は涙を飲んでクレーターの中心から半径約20kmを空爆し、焼き払った。
現在でもその一帯は第一級警戒区域として隔離されている。
首都機能を失った全世界は人類存亡の危機と急激な経済崩壊、そして天使の脅威に晒された暗黒時代に突入し、現在に至っている。
17年たった今でも散発的に天使の襲撃はあるし、いきなり首都を移転させられた京都はいまだに政情が安定しているとは言えない。
約15年前にバチカンのお偉いさんが一連の災害を聖書からモジって黙示録、アポカリプスなんて御大層な名前を付けたらしいが、それで世界が変わったわけじゃない。
何しろ、俺、黒神御景が住むこの神田市からでさえ、あの忌々しい光の柱は見えるんだから……。
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