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もう少しだ。
あと少しで爪が届く。
誰も邪魔する者はいない。
「弥勒、何やってんだよ?」
犬夜叉はさっきから祠の周囲をグルグルと回っている法師に、呆れた視線を向けた。
「これが探していた祠なら、何か供物があるはずです」
「だれかが盗んだとか…」
「何と罰当たりな」と呟き、何かの呪文を唱え始める。
…ケン…ソ…ワカ…
犬夜叉は足音を立てずに、そろりと弥勒に忍び寄る。彼は背を向けたまま、右手に数珠。左手で印を結んでいた。
「…なあ、弥勒」
「何です?」
「その女はよ、生前は人間だったんだろ?なのにどうやって、死後に妖怪化したんだ?」
その一言に、弥勒は動じずに答える。
「それが分からないから、こうして歩き回っているのではないですか」
「ひょっとして、ずっと待っていた男に逃げられたとかじゃねえの?」
閉じられていた瞼が開き始めた。
「だとしたら、くだらねえよなあ。帰って来ない奴を待ち続けることなんざ、無駄だと思わねえか?」
弥勒は背後の犬夜叉へと振り返る。今、何て…?
「では…私からもひとつ」
「あぁ?」
そこでわざと大きく息を吸い込む。
「…あなたは、誰ですか?」
「……!」
犬夜叉の心臓が跳ねた。
「お前、何言ってんだよ?」
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