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晴れた日の空だった。
「なーんか、平和そうな村ねえ」
この時代にはないセーラー服を着たかごめが、のんびりとした口調で呟いた。隣を歩いていた銀髪に犬耳を持つ少年―犬夜叉が「奈落のてがかりはなさそうだな」と頭を掻く。ここのところ、手ごたえのある妖怪と戦っていないので、退屈なのだろう。
「今夜はここに泊まりますか。みなさん、それで構いませんか?」
シャン、と鳴る金の輪がついた杖・錫杖(しゃくじょう)を持った法師・弥勒が空を仰ぐ。彼の案に反対する者は、誰もいなかった。
「妖怪…でございますか?」
会うなり「この家には妖怪がいます」と突きつけられた村長は、その言葉を理解するのに5秒を費やした。
「ええ。私でよければ、お祓い致しますが…」
「ほ、本当でございますか、法師様」
いつものやり取りを眺めながら、犬夜叉が「またか…」と呆れていた。毎度毎度、こいつの巧みな話術には舌を巻くぜ――と心の中で呟いた。
「では、どうぞこちらへ…」
「皆さん、行きますよ」
ぞろぞろと弥勒の後に続いて中に入った途端、背筋が寒くなる。何?と身を強張らせたかごめに、妖怪退治屋を生業としている珊瑚が顔をしかめた。「これは…」
「どうしたの?珊瑚ちゃん」
「凄まじい邪気だね…。ちょっと苦しい…って…」
珊瑚は隣のかごめを見た。
「よく平気だね、かごめちゃん」
「そう?」
「それはきっと、かごめ様の霊力が強いからですよ」
弥勒はそう言うなり、足を止める。その背にかごめがぶつかりそうになった。
「どうしたの?弥勒さま」
「邪気の元はここですね」
目の前の柱にお札を一枚貼り付けた途端に、家がカタカタと小さく揺れ始めた。地震かのう?と子狐妖怪・七宝が天井を見上げると、珊瑚の肩に乗っていた猫又妖怪・雲母が「?」と首を横にかしげる。
そして凄まじい雷と共に、黒い影が家を離れて飛び去っていった。
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