プロローグ

3/4
前へ
/62ページ
次へ
晴れた日の空だった。 「なーんか、平和そうな村ねえ」  この時代にはないセーラー服を着たかごめが、のんびりとした口調で呟いた。隣を歩いていた銀髪に犬耳を持つ少年―犬夜叉が「奈落のてがかりはなさそうだな」と頭を掻く。ここのところ、手ごたえのある妖怪と戦っていないので、退屈なのだろう。 「今夜はここに泊まりますか。みなさん、それで構いませんか?」  シャン、と鳴る金の輪がついた杖・錫杖(しゃくじょう)を持った法師・弥勒が空を仰ぐ。彼の案に反対する者は、誰もいなかった。 「妖怪…でございますか?」  会うなり「この家には妖怪がいます」と突きつけられた村長は、その言葉を理解するのに5秒を費やした。 「ええ。私でよければ、お祓い致しますが…」 「ほ、本当でございますか、法師様」  いつものやり取りを眺めながら、犬夜叉が「またか…」と呆れていた。毎度毎度、こいつの巧みな話術には舌を巻くぜ――と心の中で呟いた。 「では、どうぞこちらへ…」 「皆さん、行きますよ」  ぞろぞろと弥勒の後に続いて中に入った途端、背筋が寒くなる。何?と身を強張らせたかごめに、妖怪退治屋を生業としている珊瑚が顔をしかめた。「これは…」 「どうしたの?珊瑚ちゃん」 「凄まじい邪気だね…。ちょっと苦しい…って…」  珊瑚は隣のかごめを見た。 「よく平気だね、かごめちゃん」 「そう?」 「それはきっと、かごめ様の霊力が強いからですよ」  弥勒はそう言うなり、足を止める。その背にかごめがぶつかりそうになった。 「どうしたの?弥勒さま」 「邪気の元はここですね」  目の前の柱にお札を一枚貼り付けた途端に、家がカタカタと小さく揺れ始めた。地震かのう?と子狐妖怪・七宝が天井を見上げると、珊瑚の肩に乗っていた猫又妖怪・雲母が「?」と首を横にかしげる。  そして凄まじい雷と共に、黒い影が家を離れて飛び去っていった。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加