煙草とキス

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最近タバコをメンソールに変え始めた。 あたしがタバコの匂いが苦手だと言ったから先生なりの配慮だろう。 そんな分かりにくい優しさも好きだったりする。 あたしたちは一緒にいるとき一回は必ず 「この関係どうするの?」 という。 それは冗談であって、あたしたちの触れ合いでもある。 未来がないことぐらいあたしたちは分かっているし、それをワザと口にして現実感を薄める。 あたしも。純一さんも。 自分たちが傷つかないように複線を張る。 それがどんなに無意味なことを知っていても。 「どうしてわたしなんだ?」 話した口がため息混じりに開いた。 「どうしても。ないものねだりなの。」 「ないものねだり。」 繰り返す。 「先生は、あたしにないものを持っている。地位も、名誉も、お金も。あたしはそれが欲しくて、先生を求めるの。」 「じゃぁ、私もないものねだりだな。」 コーヒーを口にする。 マグカップを汚い机に置いて緑色の箱からタバコを取り出した。 シュボッと火が付く音がして、ジジッと焼ける匂いと音がした。 「君の自由、輝き、その全てが私は愛しい。」 煙と同時に「愛しい。」なんて恥ずかしくて言えない言葉を簡単に口にする。
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