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「義経さま──」
義経は、錫杖の柄を手で握り、右手をすうっと斜め上方に引きあげた。
義経の右手と左手の間に、するすると、冷たい青い光を放つ刃が現れた。
錫杖と見せていた剣を、義経が右手に抜き取った。
「何の真似でござりまするのか」
「大和坊、いや弁慶。これで、我が首を討て」
「な、何ともうされました!?」
「これで我が首を落とし、それを鎌倉の兄上のところまで持っていけ。さすればおぬしの生命はそれで助かろう」
「何と申されまするか。わたしにそのようなことができるわけが……」
義経を見やる弁慶の眼に、みるみるうちに涙がふくらんできて、弁慶は拳でその涙をぬぐいながら、激しく声をあげて哭き始めた。
「泣くな、弁慶。これが一番よい方法なのだ」
「できませぬ、お許しを……」
弁慶は、地に膝を突き、両手を突いて頭を下げた。
「弁慶──」
「我が首が、あなたさまの首の代わりになるのなら、いつでも差し出すものを……」
頭をあげて、そう言った弁慶の眼が、遠くのものを見るように細められた。
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