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鬱蒼とした、深い森であった。太い檜の古木が頭の上に被さり、青葉が天を塞ぎ、空の半分以上が隠されている。
見あげれば、ところどころに白い雲が動いているのが見える。
風足は速いらしいが、森の底は下生えを揺らすほどの風もない。空に近い檜の葉が静かにうねっているだけだ。
岩や、樹の根が出た斜面を山伏姿のふたりの男が歩いている。
ひとりは身体の大きな男。もうひとりは、まだ少年の面影を、目元や口元に残した若い男であった。
どちらも髪を後ろで束ね、兜巾(ときん)を頭に被っている。
結袈裟に梵天。法螺貝と走縄(はしりなわ)を腰に下げ、檜扇を懐に差している。
笈(おい)と肩箱を負い、右手に錫杖、左手には念珠を握っている。手甲、脚絆、八ツ目わらじ。
どこからどう見ても山伏であるのに、ふたりの歩き方、岩や樹の根を避ける折の動きや物腰には、山岳修行者とは思えぬものがある。
大きな樹や岩を回り込む時には、注意深く、できるだけその樹や岩から距離をとる。まるで、その岩の陰から、いつ獣が襲ってくるかもしれないと、ふたりは考えているようであった。
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