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「もともとは、わたしと兄上の仲を裂かんがための、京の上皇の策略」
「それに、鎌倉がのってしまわれました。策と承知で──」
「策と承知というか?」
「はい」
「悲しいことを言う」
「鎌倉は、あなたさまが邪魔になったのです。あなたさまは、華々しい戦で、名をあげられました。それを鎌倉の兄上が怖れたのです」
「───」
「平氏一門の手より天下を奪いし上は、鎌倉にとって、一番危険なのはあなたさまなのです」
「───」
「義経さ……」
「九郎坊だ」
自分の名を呼ぼうとした大和坊に、九郎坊と名乗った若い男は言った。
「九郎坊──」
大和坊が若い男の名を呼んだ。
「いえ、義経さま。お気を強く持ちなされ。いったん沈んだ陽も、また明日には昇ってまいります」
「もう、よい」
「は!?」
大和坊が若い男──源九郎義経を見やった。
「今宵の宿……?」
「ちがう」
「───」
「我らは充分に生き、充分に戦った。だから、ここらでよかろうと言っているのだ」
義経の言葉は、静かな風のようであった。
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