Chapter0-1

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 灰色の石の壁に囲まれた通路を、一人の男が行く。その先には扉が行き止まりに一つ、鉄の鈍い輝きを放っていた。  彼の格好は裾が長い外套姿。その襟を立てているために、顔は確認しにくい。目深に被っている帽子もその一因だろう。また腰の辺りがくびれており、比較的スレンダーな体格のようだ。    男が纏う衣服は全てが黒く、布地には艶消しの加工がされている。その姿は深い闇を連想させるようである。  彼は右手にリーチのある片刃の得物を持つ。その全長は彼の身長と同等だろう。  柄には真新しい血の染みた白布が巻き付けられ、刃渡り四尺二寸の刀身には布から血が垂れていた。刀の反に合わせて走る赤い液体は、重力に従って鋒から石の床に滴る。  彼が背に負っている鞘は黒石目鞘で、通路にある電灯の光を時折反射していた。  男は扉の前に来ると、錆びが所々に見えるそれを一閃する。狭い場所で振るわれた一撃は滴る血を飛ばしながら、扉のみならず周囲の石壁をも切り裂いた。空間の大小は彼の刃にとっては問題ではないらしい。  蝶番から切り離された上方の鉄塊を蹴り飛ばし、彼は下に残った障害を乗り越える。その際に鞘の角度が合わず扉の残骸に当ててしまい、渇いた音が宙に鳴った。  扉というのは大抵の場合、部屋という空間と通路を隔てるものである。男の切り捨てたそれも例外ではない。彼は自身の目的の為に室内の中に入っていった。
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