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卓哉の叫び声に振り向く草汰。
あたしは卓哉に駆け寄ろうとして、足を止めた。
……あれは……なに?
膝が震える。
そのまま崩れ落ちそうになるのを必死に踏みとどまった。
声が出ず、空気ばかりが喉の奥から漏れる。
草汰は身動きできないあたし達をじっと見つめたまま、冷ややかに笑った。
人をわざと不快にさせるような笑み。
いつもの彼からは想像ができないその態度に、少なからずショックをうけたあたしは、草汰の顔から目線を外した。
草汰の手元辺りの、卓哉が悲鳴をあげたそれ、を見る。
草汰が手にしていたものは……
切断された人の頭、だった。
口からガチガチという歯のぶつかりあう音がする。
その音で自分が震えている事がわかった。
見たくないのに目がそらせない。
顔は見えないが髪が長く、女性のようだ。
(まさか……
本物じゃないわよね……)
そう思うのに、体は動かない。
心臓が痛い。
今、あたしを支配しているのが『恐怖』だからだ。
さすがに直視し続ける事ができずに、草汰の足元に目線をずらす。
だが視線の先には、かつてひとつであったろう女性の肉体が、ばらばらになり転がっていた。
手、足、胴体、下腹部……
それらが全て赤い液体の中、乱雑に積み重なっていた。
熱いものが込み上げてきて、思わずしゃがみこむ。
卓哉も恐怖に支配され動けず、草汰の前に立ち尽くしていた。
なんとかしなくては。
そうは思うが……
なにをしたら?
混乱する頭で再び草汰を見た。
こちらを観察するような、なんの感情も籠もらない目。
口端だけを歪めた微笑み。
その目は赤く光って見えた。
地面の赤と草汰の瞳の赤。
突如、頭がくらくらとしてきて、目の前が白く霞みがかってきた。
自分の意識が遠退いていくのを感じ……
そのまま手放した。
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