消エタモノ消エルモノ

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「ん……」 寒い。 足元にあった毛布を手でたぐりよせる。 山の中だから冬は寒いだろうな、と考えつつ、ふと我にかえった。 ……あたし? ガバッと体を起こす。 「あ、明衣さんが起きた!」 その声に体が強ばるのを感じた。 声の方を振り向く。 そこにはいつもの笑顔であたしを見つめる草汰がいた。 「草……」 瞬間、目の前に蘇る凄惨な光景。 思わず険しい顔付きになる。 草汰はにこにこと嬉しそうに近寄ってきた。 「よかったぁ 明衣さん、なかなか目が覚めないから心配してたんですよぉ」 泣きそうな草汰の目。 子犬のような黒く濡れた瞳。 (赤く……ない) あたしはわけがわからず、呆然としていた。 どうやらここは自分の部屋のようだ。 草汰はあたしの目覚めを、心配して待っていたらしい。 山の中にいたのではなかったか? そう。 麻美のスコップを探すため、卓哉と一緒にいた。 その時、草汰を見かけて追い掛けて…… 「……!」 思い出した! ばらばらになった女性の死体を草汰が持っていたのだ。 いや、頭だったか。 「た……卓哉は?」 身を守るかのように、思わず毛布を体に巻き付けた。 草汰は近くにあった椅子に腰掛け、こちらを笑顔で見ている。 「卓哉はどうしたの?」 ヒステリックな口調になってしまう。 「卓哉君なら自分の部屋だと思いますよ?」 そういいながら、草汰はあたしの額に手を伸ばしてきた。 パシンッ と手で払うと、一瞬にして泣きそうな顔になる。 「明衣さん……具合悪いんですか?」 草汰の悲しげな表情が胸をちくりと突き刺す。 さっきの事は……まさか夢? 「あなた、さっき……」 聞きたいのだが、言葉にしづらい。 草汰の顔を見れなくて、うつむく。 その時。 「あ、明衣起きたのね」 洗面所から音々が顔をだした。 「音々……」 「草汰君、本当に心配してたのよ。いきなり倒れたんですって?」 「……倒れた……」 音々の出現に頭がますます混乱する。 「草汰君…… あなたあそこでなにしてた?」 あたしはなにがなんだかわからなくなってきていた。 おかしいのはあたしの頭? 山の中での事が夢なら、どこからどこまでが本当なの? わからない。 険しい表情をして見たからか、草汰は泣きそうな顔のまま再び椅子に座る。 「神楽に……」 神楽? 「神楽に呼ばれて……」
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