消エタモノ消エルモノ

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神楽というのは、あたしが入所初日に食堂で見かけた赤い髪の少年だ。 森川神楽〈もりかわ かぐら〉 草汰と同じ14歳の【グリーン】に属する少年だ。 あたしも何度か話をした事があるが、とにかく元気ではきはきした子だった。 「神楽君がどうしたの?」 草汰は言いにくそうにしていたが、やがてゆっくりと話し始めた。 草汰があそこにいたのは、神楽に呼ばれたからだという。 待ち合わせの場所に行くと、真っ赤なペンキまみれになった切り刻まれたマネキンがあったとの事だった。 「マネキン?」 草汰は頷く。 「明衣が本物だと勘違いして倒れたって草汰君から連絡もらってね。 迎えに行ったんだけど……悪趣味ないたずらだったわ……」 音々がそうつけたした。 「音々も見たの?」 「ええ。ばらばらになったマネキンだったわね」 マネキン。 あたしの見間違いだったのか…… 途端に安堵からか体の力が抜けていく。 そういえば血の匂い、というものがなかった気がする。 赤い色が目についてただけ。 人の形をしていた、それだけで死体だと判断したので、マネキンと言われたらそう思える。 思い込みによる目の錯覚だったのだろう。 そう思うと、あたしはさっきの態度が草汰を傷つけただろう事に罪悪感を感じた。 「……ごめんね、草汰君。  あたし、てっきり本物だと……」 「いえ……」 草汰は悲しげに微笑んだ。 「森川君には困ったわね。 よく……あるのよ。 彼の水無瀬君への悪ふざけ……」 音々は草汰に聞こえないくらい小さな声でいった。 森川神楽。 そんな子に見えなかったけど…… でもあの状況は確かな悪意を感じた。 俯いたままの草汰を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 気を失ったあたしを音々と2人で部屋へと運び、気がつくまで付き添ってくれたのに、ひどい態度をとった事に胸が痛む。 「草汰君……」 でも…… ここは謝るところじゃない、そんな気がして。 「ありがとう」 そういうと彼は頬を赤らめて笑った。 その後、草汰と音々は自分の部屋へと戻ったので、シャワーを浴びることにした。 神楽に嫌がらせをされていたという草汰。 あたしが知っている神楽は陰湿な仕掛けをするような子ではないと思っていた。 どちらかというと正々堂々、正面から嫌いなものは嫌い、そういう子だと。 数回しか会った事はないけども。
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