消エタモノ消エルモノ

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マネキンを死体に見立てる嫌がらせ、か。 なにか意味があるのかしら…… 草汰の過去になにか? あたしはふと、自分の中にあるしまい込んだ記憶の存在を思い出す。 人はみな、様々な過去を持っている。 それがなんであれ、なかには口にしたくない過去を抱えている人もいるはずだ。 神楽と草汰の間になにがあったか、またはなにがあるかは知らないが、きっと愉快な話ではないだろう。 あたしは…… 知らないふりをするしかないのだろうか。 髪についた水滴をタオルで拭き取りつつ、もやもやする気持ちを吹き飛ばしたくて冷蔵庫を開けた。 ビールでも、と思ったがない。 飲みたい時にないとますます飲みたくなるのはなぜだろう? よし、売店に行こう。 そう思い、スウェットを着て財布を手に部屋をでた。 「いらっしゃい」 売店には矢代さんという女性がいる。 あたしの母と年齢が近く、仲がよかったと聞いた。 売店は24時間あいていて、矢代さんは1日のうち好きな時間だけ勤務していればいいのだが、いつ来ても矢代さんはいた。 矢代さんがいない時はカードで自動精算ができるようになっているのに、矢代さんは1人でいるのはつまらないから、と好んで働いているようだ。 「こんばんは。今日も遅くまでお疲れ様です」 矢代さんはふくよかな体型に丸眼鏡をかけていて、いつもにこにこしている。 あたしはビールを3缶とおつまみとしてポテトとチョコレートを手にした。 「あらあら 今日は飲み会かしら?」 矢代さんが品物を袋につめながらいう。 「いいえ、なんだか急に飲みたくなって」 あたしは苦笑した。 ビールが大好きなあたしにとっては3缶くらい、別に酔うような量ではないのだが、矢代さんから見ると多いのだろうか? 「いい年齢の娘さんが1人でお酒を飲むのは淋しいわねー」 「慣れてますから」 彼氏いない歴も早3年。 イベント時期は寂しくなるが、いないならいないで気楽だったりする。 「そうだわ!」 矢代さんはいい事を思いついたらしく、いきなり近くにあった携帯でメールをうちはじめた。 矢代さん、メールできるんだ…… あたしの母は機械音痴なため、素直に感心して見ていた。 「少し待っててね」 そういって矢代さんはにっこり微笑むとあたしに椅子をすすめてくれた。 ちょっと……嫌な予感がする。 「誰か呼んだんですか?」 矢代さんは目をくりくりとさせて頷いた。
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