消エタモノ消エルモノ

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「誰……ですか?」 まさか…… あたしは品物を手にして立ち上がった。 「1人で大丈夫ですから」 そういって立ち去ろうとした時だった。 「ぶっ!」 勢いよくなにかにぶつかってしまった。 硬くて……でもけして痛くはない壁。 「おまたせ。熱烈な歓迎だね、明衣ちゃん」 そういって現れた人物。 あたしの予想通り、篠田だった。 「意外と強いんだね、明衣ちゃん」 篠田と食堂でお酒を飲み始めて1時間。 買っていたビールを飲み終わり、篠田が持参していた焼酎を飲んでいた。 矢代さんが誰かにメールを送っていた段階で気付けばよかった。 矢代さんは、なにかとちょっかいをかけてくる篠田と、あたしが『いい仲』だと思っていたのだ。 もちろん全力で否定しているのだが、篠田が肯定するため意味がなく…… こうして2人でお酒を飲む事になるとは。 気晴らしどころか気は滅入る。 「なんかいつも俺といると不機嫌だよね」 「そうですか?」 そうさせる理由はあなたの態度なんだけど、と思いつつ、ぶすっとしたままチョコを口にいれた。 「俺は真剣に明衣ちゃんと仲良くしたいのにな」 真剣……ねぇ。 あたしは篠田から目をそらし食堂を見回した。 食堂は24時間開放されていて、誰でも利用できる。 もちろん食事ができる時間は決められているので、時間外に来る人は少ない。 今もあたしと篠田の2人だけだ。 「聞いてるかい?」 篠田はあたしがよそ見をしていたため、あたしの腕をつついた。 「聞いてます」 うんざりしつつ向き直る。 「真剣……なんだけどなぁ」 篠田はあたしをじっと見つめた。 あたしも篠田を見つめ返した。 目と目があう。 篠田はふっと微笑んでゆっくりと顔を近付けてきた。わずかに顔を傾けつつ。 あたしは篠田の目をじっと見つめる。
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