秋ノ空ヲ臨ミミテ

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暑い…… じりじりと肌をやく音が聞こえてきそうな日差し。 あたしは暑いのが苦手だ。 汗をかくのが嫌いだ。 べたべたする肌や、むっとする熱気。 まぁ…… 今は秋なんだけど。 残暑が厳しい。 空を見上げ目を細めた。 夏ではない。 でも。 こう暑いと嫌な記憶を呼び覚ます。 頭を軽く振り、雑念をはらった。 今は記憶に捕われる時ではない。 あたしの目の前にいるその子は、これでもかというぐらい渦をまかれたソフトクリームふたつを手に持ち、チョコにするかストロベリーにするか悩んでいた。 「あの。あたしはどっちでもいいんだけど」 あたしの声にその子はびくっと体を震わす。 いやいやいや そんなに怯えなくても。 買ってきてから2、3分。 表面はすっかり溶けてたれていた。 「あ……あのっ! 僕……」 お。 決まったのかな? 「選べませんっ」 たはは。 なんじゃそりゃ。 あたしは苦笑いしてチョコの方を取った。 途端に歪むその子の顔。 チョコを戻し、ストロベリーを取った。 やはり歪む顔。 「いいわよ。両方食べても」 あたしは微笑みかけた。 その言葉に彼は泣きそうな顔になる。 (一体どうしろというのよ、あたしに) あたしの方が泣きそうな顔になりながら、ゆっくりとチョコを取ってそのまま口をつけた。 あたしの名前は 萩谷 明衣〈はぎや めい〉 子守りではない。 ソフトクリームで優柔不断ぶりを発揮していた彼を『その子』と呼んでいたが、子供というには難しい年齢だ。 彼の名前は 水無瀬 草汰〈みなせ そうた〉 中学2年生。 草汰は実年齢よりも少し幼い。 いわゆる思春期、反抗期の時期であろうが、その様子は全く見えない。 優柔不断だが、とても素直で優しい少年だと思う。 外見的にも華奢で一見、少女かと思うくらい中性的だ。 なぜかあたしの事を恐がっている模様。 どちらかというと小さな子や年下には慕われやすいタイプだと思っていたので、彼の態度はちょっと……ショックだったりする。 なにかしたかなぁ。 あたし。
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