悲シキ好意

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すぐに神楽の部屋に向かうのも悪い気がして、もう一度事務所、音々の部屋、卓哉の部屋とまわったが、目当ての人物には誰1人会わなかった。 自分の部屋へと戻ると、部屋の前に人影があった。 水色のTシャツにジーンズを着たその人は背中をあたしに向けたまま扉に寄りかかっている。 振り向かなくてもわかった。 草汰だ。 あたしは手の平が汗ばむのを感じた。 心臓の動きが速くなる。 不安。 緊張。 そして、わずかな恐怖を感じ、あたしはゆっくりと彼に近づいた。 「……草汰君…… どうしたの?」 あたしの声にびくっと体を震わせて、草汰はこちらを振り向いた。 その表情は真っ赤で照れくさそうにしている。 あたしを見てもじもじとしたかと思うと、俯いてしまった。 こんな草汰を見ると、昨日の事がなかったような気がする。 あたしが知っている草汰の姿に少し、ほっとした。 「明衣さん……元気か気になって……」 (ずっと気に掛けてくれてたんだ) ちくんっ 胸の奥で罪悪感が心を刺した。 あたしは草汰を以前のようには見れない。 そのため、彼が寄せてくれる好意を素直に嬉しいと感じる事ができなかった。 「あたしなら……大丈夫よ」 そういって微笑む。 自分の笑みが白々しい。 草汰はにこにこしながら、ジーンズのポケットをごそごそと漁りはじめた。 「?」 その様子をじっと見ていると、草汰はあたしの目の前に小さなピンクの袋を取り出した。 真っ赤な顔で差し出す。 「これ……あたしに?」 大きく何度も頷く草汰。 「ま……町で買いました。明衣さん……に……似合い…そうで……」 うわずった事でそういいながら差し出す手が震えている。
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