秋ノ空ヲ臨ミミテ

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彼とあたしは、実は今日が初対面である。 あまりに暑いので、ソフトクリームを食べようと買ったら、この有様で。 なんとなく短時間で草汰の性格がわかってしまった。 あたしは今年22才。 今まで普通に百貨店で販売員として働いていたが、転職を機に退社。 あたし自身の希望転職というわけではないし、正直乗り気ではない。 だが、病で倒れた母の代わりがどうしても見つからず、心配から治療に専念できずにいる姿を見ていると、黙ってはいられなかった。 草汰はあたしがこれからお世話になる転職先の、お迎えらしい。 最初、冗談かと思っていたが、彼は至極真面目に『お迎え』としてあたしをエスコートする。 確か、母の代わりにあたしが働く先は、ある研究所だと聞いていた。 住み込みで働く事が条件で、あたしの主な仕事は研究のサポートだといっていたはず。 こんな中学生くらいの少年がいるとは思ってもみなかった。 草汰に 『あなたは研究所の誰かの息子さん?』 と聞いたのだが。 彼は困ったような顔をして、 『そういうわけではないんですけど…… 研究所の関係者です』 と、なんとも弱々しく言った。 いかんとも。 母から研究所の詳しい説明を聞く時間はなかったし、直接行けばなんとかなるだろうと思っていたのだが、先行き不安である。 ソフトクリームを食べ終わり、草汰と2人、研究所に向かう事にした。 迎えがくるからと聞き、待ち合わせに指定されていたのは福岡、博多駅。 そこから電車に乗り…… 乗り換え…… 乗り換え…… すでにどのくらいの時間がたったのだろう。 あたしは何時間にも及ぶ電車での移動にすっかり疲れ果てていた。 草汰はというと、若さゆえかピンピンしている。 あたしと目が合うとびくびくしながら顔を赤く染めたり、もじもじと俯く。 最初の頃は研究所について話を聞いていたのだが、草汰は 『所長に聞いた方がわかりやすいので』 といい、何も語ろうとはしなかった。 意外に頑固な一面もあるらしい。
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