目覚め

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目覚め

   暖かい。いつから自分はこれ程、大胆になったのか。 じんわりと花びらの絨毯へ、広がっていく。 気分は悪くない。 不思議だ。後悔すら覚えなかった。 重たい目蓋。冷たい指先。 少しの勇気が必要で。 小さく息を吸い込み目を開けると、風が桜を揺らしていた。空は青く澄んでいて気持ちがいい。 今を惜しむように、僕は胸いっぱいに呼吸する。 ほの甘い香りと、日の光の眩しさに僕は目を細めた。 全てが輝いて見えた。 美しくて、遠い。 でも、一番輝いてみえるのは…… 到底、浮かぶはずも無い二人の笑顔を感じて、僕はにっこりと微笑みを浮かべていた。 会いたい。 心からそう思った。 淡く揺らぐ桜。 前も見えなくなるくらい、僕に降り注ぐ花びら。 濡れて張り付くシャツ。 まだ重たく、横たわっていたいと体は告げていたけれど。 急がなければなからなった。 少し痺れた体をゆっくり起こそうとしても……どうやらそれは叶わないようだ。 僅かに染まり動いた手を伸ばし、消え入るような声で呟く。 伝わったかな。 僕の方はもう。 音は聞こえない。自らの声すら風にとけて消える。 そう。緩やかに暗転していく中で、僕は気付いた。 何を……急ぐ?  僕は。 僕は……誰なんだ? その瞬間に、状況は一転した。image=64176047.jpg
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