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「どうかしました?」
潜在意識によって、表へと現れる事を許されなかった、その記憶の断片は、洋介に新たな恐怖心を甦らせ、再び困惑の世界へと突き落としていった。
「見えた!女が見えた!白い…白いワンピースを着ていた!」
洋介は、フラッシュバックしたリアルな事実を受け入れる事が出来ずに、ガタガタと震えている。
「ああーっ!白い塊じゃない!白い人間やった!!」
洋介は留美の手をきつく掴んだ。
その勢いで留美はよろめき、点滴のボトルやチューブを床に散らしながら、洋介の鼻先へ覆い被(かぶ)さった。
洋介の震えは止まらない。
「留美ちゃん…怖い…俺怖い!」
留美は洋介の震える頬を、優しく自身の胸に当て、静かに抱き寄せた。
「大丈夫よ‥大丈夫」
「……」
「……」
「……ごめん」
洋介はゆっくりと体をずらし、甘くも優しいその拘束を、自らが余韻を持って離れてゆくのだった。
「おっぱいにほっぺたが当たった…ほっぺたにおっぱいか?」
「あはは‥」
「旦那に殺されるばい!」
わざとおちゃらけて見せる。
雰囲気を取り繕うためでもある。
洋介は微笑みながら留美の顔を見た。
一瞬だが留美の瞳の奥に、冷ややかな憎悪の影が見えた様に感じた。
「どうしたと?俺なんかいらん事言った?」
留美はすぐさま顔をあげ洋介に微笑みを返した。
「ううん‥愛されとらんけん私……」
「ハハ‥そんな事ないやろう」
洋介は月並みな言葉ではぐらかそうとしたが、留美の目線は下へと落とされた。
「……ホントヨ」
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