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頭に直接響くような留美の言葉に、洋介は一瞬たじろぎ、目のやり場を床に散らばる点滴やルートの束、注射針へと向けた。
俯く留美も、洋介にチラッと目をやったが、そのまましゃがみ込んで、それらを拾い上げた。
「本当なの…愛されてないの私…」
「う‥うん」
まっすぐに向けられる留美の瞳を、無碍(むげ)に避けることもできず、洋介は内にある困惑を押し殺して、真剣な眼差しを留美に返した。
「旦那‥女がおるとよ」
「そ‥そう……」
「結婚前から、ずっと一人の女…」
大きな瞳をきらきらと光らせるものは、今にも溢れそうな涙の震えだった。
留美の言うその女とは同じ会社に同期で入社した同僚の…いや、親友の真紀だった。
夫も同じ会社に勤め、一見、誰もが羨(うらや)む社内恋愛からのゴールインに見えた結婚も、夫の影に真紀の存在が見え隠れしていたのだった。
それは今現在も続いているが、留美は健気にもその事実に目を背けながら、気付いていない振りに徹し、良き妻を演じている。
「いいと!これも運命だから」
「運命ねー。ちょっと待って!死んだ戸田忍がその女?」
留美の手が止まり、点滴を見つめる目は瞬きをやめた。
「違う、別のひと。洋介さん?運命って………もっと残酷よ」
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