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そう言うと、朝の回診でよく見かける小柄な看護師は、エレベーターに向かって、パタパタと駆けていった。 「あれ?留美ちゃん‥車椅子なくなっとう!」 「……」 「誰か持って行っとうばい!」 慌てる洋介をよそに、留美は無表情のまま洋介を見つめている。 「ん?どうしたと?留美ちゃん…」 「ううん…」 洋介は留美の寂しげな瞳に気付くと、覗き込む様に腰をかがめた。 「車椅子なくなったって事は、さっきの俺達‥誰かに見られたかも?心配しとうと?」 「ううん…それは大丈夫。ただ…」 「ただ?」 「私、無性に寂しくて…悲しいの。自分でもどうしていいか解らない」 「忍さんの事?」 「……」 留美は俯くだけである。 「留美ちゃん…俺頑張って思い出すたい!」 すると、車椅子を押して現れたのは、もう見慣れてしまった、いつもの刑事だった。 「洋介さん頑張って下さい…お願いします」 留美はそう言うと、屋上を後にした。 「こんにちは…話しじゃ来週にも退院らしいですね」 「3ヵ月ですからねえ…長かったですよ。それより、ひき逃げの犯人は?」 「手掛かりがほとんど無くてですね…目撃証言が全く取れんとですよ。唯一の目撃者は田中さんだけなんですよ…犯人は、田中さんが見た二つの目。その目が犯人なんです」 洋介はそれ以上の事が思い出せない自分に苛立つばかりだった。 留美の友達でもある被害者…洋介の記憶に甦るのは、宙を舞う悲しげな表情だけ。 留美の為にも、犯人の顔を思い出さねば…
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