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10月末、退院して約1ヶ月後に、洋介は仕事に復帰した。 この1ヶ月間、洋介は毎日のようにリハビリに通ったが、留美には一度も会うことがなかった。 洋介は何かしっくりこない胸のつかえと、晩秋を漂う切ない片想いに、力の抜けた日々を送っていた。 留美…あいたいなぁ そう言えば、退院の日…出て来てくれんかったなぁ 俺の中じゃ…特別な存在だったのに でも、なんと言っても人妻やけんねぇ 洋介はこの歳になって再び訪れた、胸の奥がもぞもぞする様な切ないときめきに、苦笑いやらため息やら、若きし頃の…まるで思春期に戻ったかのように、落ち着かない気持ちを抱いて、家路につく車のハンドルを握っていた。 左手に空港が見える。 あの日と同じ時間だ。 留美の友達…忍、29歳という若さで…死ぬに死にきれないだろう。 俺の記憶さえ確かなら、犯人を捕まえられるのに。 洋介の苛立ちは踏み込む力に反映し、おのずとスピードは増していった。 あの日の…あの場所 「ん?……ひと?」 白いワンピースの「忍」が叩きつけられた支柱の下に、過ぎて行く車達のヘッドライトに照らされ、なんと!佇(たたず)む人影がくっきりと浮かび上がっていたのだ。 洋介は、一瞬にして過ぎ去った人影を、進む車の窓から首を出して目を見開いていた。 「なに?留美!?」 そして路肩へ急停車し、気付いた時には既に洋介は走り出していたのだった。 「留美ちゃんっ!」 洋介の叫び声に振り向いたのは、白いワンピースを着た…まさに留美だった。
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