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留美はまっすぐに洋介を見つめる。
車道を挟んで対峙する二人に、時間という概念が一瞬消えていた。
信号が青に変わるやいなや、洋介は横断歩道に飛び込み、まだまだ完全じゃない左足に鞭打って、見つめる留美の元へ急いだ。
「留美ちゃん…」
「洋介さん…」
一定の距離を置いて、2人は見つめ合った。
しかし洋介にとって、その距離は問題じゃない。
目の前に、あの留美がいる。
そして、甘くも切ない細くしなやかな指の感触が、手のひらに甦って来た。
洋介は、完全に留美の虜になってしまっている自分を、改めて認識するのだった。
「こんばんは。その後どうですか?」
久しぶりに再会する留美の笑顔は美しかった。
「う‥うん。まあまあいいよ。留美ちゃんは元気にしとった?」
「まあまあですね…うふ」
「そっか、よかった。でも会うの1ヶ月ぶりやね…あっ!最後の日、留美ちゃん顔出さんやったろうが」
留美は、少しばかり寂しげに微笑んだ。
「なんか……さよならが寂しくて」
「まじ?俺なんか、この1ヶ月間ずっと考えよったよ…留美ちゃんの事」
「またあ‥彼女いるくせ!」
「自分も旦那おるくせ!」
笑う2人の距離は、もう縮まっていた。
「留美ちゃんの家、近いと?送ろうか?それともドライブでも行く?」
「え!?」
留美は一瞬戸惑った素振りを見せたが、その表情は、すぐに笑顔へと変わっていった。
「洋介さん…ドライブがいい!」
「オッケー!おっ!青やんっ…渡ろう!」
「うんっ」
2人は、待ち焦がれた互いの手を引き付けあった。
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