4/9
前へ
/56ページ
次へ
留美はまっすぐに洋介を見つめる。 車道を挟んで対峙する二人に、時間という概念が一瞬消えていた。 信号が青に変わるやいなや、洋介は横断歩道に飛び込み、まだまだ完全じゃない左足に鞭打って、見つめる留美の元へ急いだ。 「留美ちゃん…」 「洋介さん…」 一定の距離を置いて、2人は見つめ合った。 しかし洋介にとって、その距離は問題じゃない。 目の前に、あの留美がいる。 そして、甘くも切ない細くしなやかな指の感触が、手のひらに甦って来た。 洋介は、完全に留美の虜になってしまっている自分を、改めて認識するのだった。 「こんばんは。その後どうですか?」 久しぶりに再会する留美の笑顔は美しかった。 「う‥うん。まあまあいいよ。留美ちゃんは元気にしとった?」 「まあまあですね…うふ」 「そっか、よかった。でも会うの1ヶ月ぶりやね…あっ!最後の日、留美ちゃん顔出さんやったろうが」 留美は、少しばかり寂しげに微笑んだ。 「なんか……さよならが寂しくて」 「まじ?俺なんか、この1ヶ月間ずっと考えよったよ…留美ちゃんの事」 「またあ‥彼女いるくせ!」 「自分も旦那おるくせ!」 笑う2人の距離は、もう縮まっていた。 「留美ちゃんの家、近いと?送ろうか?それともドライブでも行く?」 「え!?」 留美は一瞬戸惑った素振りを見せたが、その表情は、すぐに笑顔へと変わっていった。 「洋介さん…ドライブがいい!」 「オッケー!おっ!青やんっ…渡ろう!」 「うんっ」 2人は、待ち焦がれた互いの手を引き付けあった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加