155人が本棚に入れています
本棚に追加
「くそーっ!遅くなったー!」
ヘルメットの中で口にした言葉は、こもった音に変化し、すぐさま耳へと入って来た。
「美奈子…怒っとろうなあ…」
120㌔か…
俺は、板付空港を左手に見ながら、帰宅を急ぐ車も減り始めた幹線道路を、恋人の待つアパートへと、ひたすら前かがみに風を切り裂いて行った。
ポツポツとまばらに走る車が止まって見え、風と同化した俺の体は、それらを縫うように後方へと消して行く。
随分先に見える歩行者用信号が青の点滅を開始する。
「間に合うか?」
俺はギアを一つ落とし、アクセルを全開にした。
黄色……
前を走る車は、テールランプを真っ赤にしている。
「とまるか!」
俺は余計にアクセルをひねり、停止線に止まる二台をすり抜け、交差点に侵入する。
「間に合った…!?」
……なに!?
「うわあーっ!!」
何てことだ!
俺の前方、交差点の向こう岸付近を、弧を描きながら横切る白い物体……スローモーションだった。
その白い塊は、俺をかすめ都市高速の支柱に当たると、ふわっと地面に横たわった。
今度は、止まりそうだった時間が早送りの様に動き出す。
ふぁふあーーーん
きいーーーーっっ
振り向いた先に横たわる塊が、人だと分かった俺の心臓は驚きの鼓動を一気に始めた。
そして、飛んできた方向に目をやった俺は、全てを理解した。
横断歩道の上に横を向いて止まる大型のセダン。
信号待ちの車から人が出てくる。
ふぁんっ!
ふぁふあーーーん
ふぁんっ!
「救急車よんでっ!」
俺は気がつくと道を逆走して、車から降りる人達の前で、シールドを上げ叫んでいた。
きききききぃぃー!
……!?
黒いセダンから、ホイルスピンの白煙が上がった。
「あいつ、なん逃げようとや!?」
俺はシールドを閉め、アクセルを掴んだ。
ふぁんっ!ふぁんっ!
最初のコメントを投稿しよう!