狭間1

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「くそーっ!遅くなったー!」 ヘルメットの中で口にした言葉は、こもった音に変化し、すぐさま耳へと入って来た。 「美奈子…怒っとろうなあ…」 120㌔か… 俺は、板付空港を左手に見ながら、帰宅を急ぐ車も減り始めた幹線道路を、恋人の待つアパートへと、ひたすら前かがみに風を切り裂いて行った。 ポツポツとまばらに走る車が止まって見え、風と同化した俺の体は、それらを縫うように後方へと消して行く。 随分先に見える歩行者用信号が青の点滅を開始する。 「間に合うか?」 俺はギアを一つ落とし、アクセルを全開にした。 黄色…… 前を走る車は、テールランプを真っ赤にしている。 「とまるか!」 俺は余計にアクセルをひねり、停止線に止まる二台をすり抜け、交差点に侵入する。 「間に合った…!?」 ……なに!? 「うわあーっ!!」 何てことだ! 俺の前方、交差点の向こう岸付近を、弧を描きながら横切る白い物体……スローモーションだった。 その白い塊は、俺をかすめ都市高速の支柱に当たると、ふわっと地面に横たわった。 今度は、止まりそうだった時間が早送りの様に動き出す。 ふぁふあーーーん きいーーーーっっ 振り向いた先に横たわる塊が、人だと分かった俺の心臓は驚きの鼓動を一気に始めた。 そして、飛んできた方向に目をやった俺は、全てを理解した。 横断歩道の上に横を向いて止まる大型のセダン。 信号待ちの車から人が出てくる。 ふぁんっ! ふぁふあーーーん ふぁんっ! 「救急車よんでっ!」 俺は気がつくと道を逆走して、車から降りる人達の前で、シールドを上げ叫んでいた。 きききききぃぃー! ……!? 黒いセダンから、ホイルスピンの白煙が上がった。 「あいつ、なん逃げようとや!?」 俺はシールドを閉め、アクセルを掴んだ。 ふぁんっ!ふぁんっ!
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