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「洋介…おしっこの色戻った?もう、血混ざっとらんみたい」
ベット横の円椅子で、洋介の足元にぶら下がるナイロンのパック容器を指でつつきながら、悪戯っぽい笑顔を投げかけている。
美奈子…30歳
同棲する二人は、事実上婚約中で、事故さえなければ、来春にも結納を済ませ、折を見て年内には式を挙げようか‥という関係であった。
事故によって、それが延期になってしまう事は、二人を取り巻く全員の認識する所である。
左肘の脱臼骨折、そして肋骨が5本折れている。
これからが酷い。
股関節脱臼、腎臓損傷、膀胱損傷……これに全身打撲がプラスされる。
「ねえねえ!この袋押してよか?」
「あほか」
「押したら戻るかいな?」
「すんな!傷口からしょんべん出てきたらどげんするとや!」
「あはは‥怖かねそれ!」
洋介は、場を明るく和ませる美奈子の茶目っ気に、目を細めていた。
いつから居たのだろう…意識が戻ってかれこれ1ヶ月になるが、初めて見る看護師だ。
洋介は軽く頭を下げた。
「こんにちは‥」
「消毒しますね。すみません付き添いの方はちょっと外へ」
「ほら!ちょっと出とかんか…すけべ」
「は?」
美奈子は困惑した表情で不満をあらわに、病室を出て行った。美奈子…この看護師が美人やけん、やきもちやいとうな…でも綺麗かあーこの人。
「大丈夫ですか?」
「は‥はい」
「今日からこの部屋の担当看護婦です。吉岡です」
「担当とかあると?知らんかった。で?吉岡なにちゃん?」
「うふ‥留美です。よろしくお願いします」
担当?俺の?…洋介は布団に入れた右手で力強いガッツポーズをしていた。
口をへの字に結んで。
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