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留美は少し淋しそうな顔を洋介に向けていたが、ゆっくりと口を開いた。
「刑事さんがさっき、容疑者と目が合ったって言ってたのは本当なんですか?」
「ああ!あれ?…実は本当」
「田中さん見たんですか?犯人!」
「いやいや、男やったのか、女やったのかさえ解らん。本当に目だけ‥」
「じゃあ、もう一度その目を見たら解りますか!?」
冷静さを欠いた留美の声に、洋介はびっくりして圧倒されていた。
「留美ちゃん?どうしたと?」
「い‥いえ。すみません」
明らかに動揺している素振りの留美は、一度うなだれたが、すぐさま顔を上げ、洋介の目をしっかりと見つめた。
「田中さん……私、ひき逃げされて死んだ戸田忍の友人なんです」
「ひき逃げ……あの時の人の?」
「洋介さん!思い出して下さい!」
……あの時
脳裏に甦るコンマ数秒の情景。
マフラーの高音がBGMとして、ヘルメットの中を乱舞している。そして目の前を横切る様に飛び去って、視界から消えた白い……
……ひと
……おんな!
洋介の頭の中にフラッシュを焚(た)いた様な、落雷する稲光の様な衝撃が走った。
洋介は目の前の閃光に一瞬目が眩(くら)んだ様な錯覚に陥(おちい)り、思わずギュッと目を閉じた。
駒送りの中に…
宙を舞う
白いワンピースの女性が見えた…
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