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帰りは久々に教会に寄って行こうと思った。
この教会の神父が、祖母の世話になっていたようで。
昔から付き合いがあったらしいんだけど、祖母が死んでからは疎遠になってしまっている。
今までも寄ろうと思えば、いつでも寄れたのに。
何故か、教会の事などすっかり忘れて生活していた。
それが今日は、何かを思い出したかのように「教会」という存在を強く意識していた。
中には誰もおらず、シ-ンと静まり返っている。
僕はあまり前まで行かず、適当な長椅子に腰掛けた。
「ふー…」
深いため息と共に目をつぶれば、母さんの怒った顔が浮かぶ。
試験受けてないと知ったらどれほど怒るだろう。
あれから気がついたのは夕方の医務室でだった。
当然ながら試験は終わっていた。
そんなわけで真っ直ぐ家に帰る気になどなれなかった。
「やぁ…しばらくぶりだね」
声に目を開ければ、聖職者の服を着た男性。
胸元にある十字架は、その者が神父であると示している。
神父は僕の事を覚えているらしかった。
「あ……えっと…」
僕は神父の顔をはっきり見る事が出来なかった。
ヨイヤミ マオ
「君は、宵闇真央…くんだったよね」
「はぃ…」
「いやー、大きくなったね。それで……悩み…事かな?」
「………えーと……」
「だいじょぶ、だいじょぶ。しばらくぶりだからって遠慮することはないよ。ココはそーゆー場所だからね」
「…いや……ザンゲとかじゃなくて…」
「わかっているよ。私がいったのはそーゆー意味じゃない。教会の神父たる者、善良な青少年の心のケアぐらい、出来なくてどうしますか?」
「あ…」
なるほど! と答えそうになって、ようやく神父の顔をまともに見れた。
まだ若さの残る、眼鏡をかけた優しそうな笑顔。
「どうしたんだい? 不思議そうな顔して?」
「いや…ばあちゃんの知り合いにしては………」
「若いかい? 私は38だ。君のお祖母さんに会ったのは、私が8才の時だった…かな」
「そんな昔から?」
「うん。だから君のお父さんにはだいぶヤキモチを妬かれたけどね」
神父なりの冗談なのか、あっははは…と笑う。
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