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(私もあんな風に弾けるようになるかなぁ…)
藍の心は、完全に柊一の演奏に魅了されていた。自分の演奏とはまた違った微妙なタッチに、少し傷ついていたりもしたが。
「あぁ!」
柊一が突然叫んだのに驚いて、藍は飛び上がってしまった。
「そうか!そういうことか!じゃあここは3連符とピチカートのメロディにして…最後は消えてく感じ…トレモロかな…」
「あの、先生…?」
柊一は楽譜に修正を加えていきながら、ちらりと藍の方を見た。
「タイトル、何がいいかな?」
あまりに上機嫌な柊一に、藍は唖然としっぱなしだ。
「…どうして聞くんです?」
「せっかくぴったりの曲想を考えてもらったから、こいつの名付け親になってくれないか」
藍はしばし俯いて、柊一の指先を見つめた。柊一の目は吸い込まれそうなくらいに輝いて、目を合わせていられなかった。掛け時計が午後6時を指した。
「まぁ、すぐにとは言わないけど、何しろ委嘱曲だから…」
「委嘱された方に申し訳ないです。先生が付けるべきです」
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