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ふと顔を上げると、柊一は目を閉じて前後に揺れていた。
今、喋ってたのに。
「…先生。疲れてるんですよ。もうお休みになってください…」
藍は身の回りの片付けを始めた。楽譜とチューナーを小さな鞄に入れ、向かい合わせの箏2面は柱を外し、静かに壁に立て掛けた。椅子に座って弾くための立奏台もパーツごとに分解し、箏の横に立て掛けておいた。
「…俺、今寝てた?」
辺りがさっぱりキレイに整頓されたところで、柊一がぼんやりしながら言った。
しかし藍の姿は見当たらなかった。彼女が持ってきた小さな鞄も無くなっている。
(…帰ったのか)
よいしょ、と言いながら立ち上がると、玄関の方で物音がした。
「藍か?遅くまで悪かったな」
玄関の電気を付けてやると、薄いベージュのカーディガンを羽織った藍が、靴を履いたまま腰かけていた。
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