音楽

13/15
前へ
/112ページ
次へ
  柊一はマグカップに熱いココアを作って持ってきた。 「落ち着いたか?」 「…なんとか。ありがと、先生」 藍は青い顔のまま、ベッドの上で体を起こした。横にある小さな丸いテーブルの上にマグカップを置くと、柊一はそそくさと隣の部屋に行ってしまった。 (…倒れた理由…聞かないのかな) 隣の部屋からテレビの楽しげな笑い声が聞こえる。ぼんやりと一点を見つめたまま、藍は仄かに明るい寝室でココアをすすった。 「なんか欲しいもんある?」 柊一が濡れた温かいタオルを持ってきた。 「お腹すいた…」 「あぁそっか。そういえば俺も食ってねぇな、晩メシ」 何かぶつぶつ言いながら、また柊一は部屋を出て行った。 とうとうバレてしまった。玄関先でふらついた藍は、それでも1人で帰ると言い張った。しかし視界は真っ暗で、平衡感覚もなくなって、歩こうとすればよろけた。 柊一は見ていられなくなったらしく、こうして寝かしつけられた…というわけなのだ。 丁度正面にあった時計はもう10時半を過ぎていた。 (いつ帰ろうかな…) 薄明るいライトに照らされたココアがオレンジの光を反射した。  
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加