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(やっぱり、帰らなくちゃ)
「起きていいのか?」
藍はまだ具合が悪そうなのだが、ベッドから起きてきた。柊一は彼女が帰ろうとしているのを見て、引き止めた。
「んな調子で歩けるわけないだろ!」
「先生は明日の朝、早いんですから」
「それとこれとは別だ」
「迷惑かけますから」
「全然」
「私も朝早いから」
「そんな嘘はやめろ」
「…帰ります」
ドンッと鈍い音が響いた。
藍の行く手を阻む拳が、壁を殴った音だった。藍は固まったように動かなくなった。
「帰せないだろう…そのままじゃ」
ギロリと柊一が見下ろした先…藍は苦しそうに顔を歪め、その目は潤んでいた。
…リビングのソファに腰かけたまま、二人は再び石のように固まった。ひたすらに時間と沈黙が流れていった。ココアは冷たくなっている。
柊一は前のめりに藍を見たまま、藍は俯いたまま。藍の伏せた長いまつ毛が涙で濡れていた。
「…聞いてもいいか」
先に口を開いた柊一は、冷たくなったココアをすすってため息を吐いた。
藍は静かに首を横に振った。目に溜まった涙が、こぼれ落ちた。
「もういいんです…」
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