記憶

2/12
前へ
/112ページ
次へ
  目を覚ました場所は玄関だった。 自分のアパートの玄関の真ん中、ブーツも脱がないまま倒れた込んだらしい。起き上がろうとすると、頭が割れるように痛い。 「どうしてこんな所で…」 倒れたまま腕時計を見た藍はため息を吐いた。午後2時過ぎ…藍の受ける講義はとうに終わっている時間だった。 これはただの寝坊ではないことを、藍はわかっていた。だがやはり、口には出せない。 この頃こういう事がよく起こる。倒れるまでにはいかなかったが、朝は起き上がれないほどのめまいと頭痛に襲われていた。 そしてついに、倒れるようになってしまったらしい。明らかに症状は悪化していた。 しかし、だからと言って大学や箏を休むわけにはいかない。つまり放っておくしか手立てがなかった。 昨夜の雨のおかげで、服も体も泥にまみれていた。一体どうやって帰ってきたんだろう…? ───ピンポーン… 背中の方でチャイムが鳴った。が、こちらはそれどころではない。 ただ、記憶にはないが鍵はかけていたようなのでホッとした。  
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加