記憶

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  「藍!私だけど、出られるー?」 柚子の声だった。助かった!…と言いたいが、体が言うことをきかないので鍵を開けてあげられない。 藍はその時初めて、初めて自らの体の不自由さに気が付いた。 「ごめ…。すぐそこに、いるんだけど…」 声までまともに出ない。力ない声に、柚子も驚いているようだった。 「倒れてるの?誰か呼んでこようか」 「…大丈夫。ちょっと待ってて」 やっとの思いで立ち上がって壁伝いに歩き、鍵を開けた。慌ててドアを開いた柚子の胸に、藍はよろけて倒れ込んだ。 「藍…!」 「心配しない。気持ちは元気っす」 「体が伴ってないとダメでしょ!中、入ろう」 柚子の肩を借りながら、藍はようやく奥の今にある長椅子まで来れた。息が整わない。 「まさか、ずっと玄関にいたの?」 お湯で濡らしたタオルを持ってきた柚子が、泥まみれの藍を見た。 「前の晩からね…」 「よく風邪ひかなかったね」 タオルを受け取った藍は腕や顔を拭いた。 「そっちの免疫は素晴らしいんじゃない?」 冗談を言ったつもりが冗談になっていないことに気付いて、藍は気まずそうにした。  
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