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海と空が一体になっていた。波立つ海面の色をそのまま塗ったような真っ青な空。
藍は1人、波打ち際で佇んでいた。素足に春の冷たい海水がまとわりつく。
何故ここへ来たのか自分でもよくわからなかった。散歩をしようと思って外に出、小道を通り抜けて、ひと気のない下り坂の途中にこの浜辺がある。その経緯は覚えているのだが、何を思ってここへ来たのかはわからない。
ただ、何か重く憂鬱な物が頭の上に乗っていて、振り払いながら、しかし懐かしく感じながら歩いていたことは確かだった。
「…身投げじゃないよな?」
後ろから低い声がした。
藍は驚いて振り向くと、
「駿…」
始め顔に笑みを浮かべていた山代駿は、彼女と目があった瞬間、怪訝な表情になった。
「こんなところで何してるんだ?お前、今日レッスンじゃ…」
近寄る駿に目もくれず、藍はまた沖合いに向き直り、砂浜に座り込んだ。
「何かあったのか?」
「駿は?講義終わったの?」
「講義はとっくに終わったよ。それよりお前、風邪ひくぞ」
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