記憶

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  駿は同じ大学に通う、2つ上の先輩だ。そして同じく柊一に師事する兄弟子でもある。 「バカなこと…考えてないだろうな」 「バカなこと…?」 「死のうと思ってねぇよな」 「…死ぬ?誰が」 「お前だよ」 その声を聞いた途端、轟音が耳に響いた。波の音だ。こんな音を耳のいい藍が好むはずがないことを駿は知っている。 「死なないよ。まだ、死にたくない…」 「それならいいんだけど」 がっちりしていて体格の良い駿は、背は柊一よりは高い。灰色のパーカーにジーンズを着ていた。丁度藍のアパートを訪ねようとしていたらしい。遠くに停めてあった黒い車がハザードランプをチカチカさせている。 藍は足にまとわりついた砂を払い落として、靴下と靴を履き始めた。 「ちょっとどこか行かないか?」  
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