記憶

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  「最近すごく気にかかるの。もし柊一先生があの時の担当医だったなら、どうして音楽の道を歩み始めたのかとか…」 「でもなぁ…それは歳の計算が合わんぞ。お前が20で、15年前ということは、柊一先生の歳から15引くんだぞ?まだ先生は15歳だ」 「先生が歳を誤魔化してるとか!」 興奮して声を荒げていた藍は、ハッとして急に大人しくなった。 雪が降ってきた。やわらかい綿雪だ。フロントガラスに付いては、ふわっと溶けてゆく。2人は黙って、車のエンジンだけが響く。 山道を抜けて隣町へ下る道路。雪はゆっくりと、風は無く、時間の流れは遅く感じた。 「春の雪か…」 長いため息のあと、ほんのすぐ後に駿のハンドルは左に切られ、小道に入った。 「どこに行くの?」 「…………」 「妙なところ、連れてかないでよね。明日は愛媛でコンサートでしょ?わかってるよね」 「妙って、なんだよ?」 「……ホテル」 「冗談じゃねぇ」 「あ。赤くなった」 「うるせぇ!」 ようやく和やかな雰囲気になり、車は坂を上って小高い丘の駐車場に停まった。  
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