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「1時間半だからさ。着くまで寝てろよ」
エンジンをかけた後、駿は後部座席から毛布を出して藍に渡した。
「襲う気だ」
「襲わねーよ!」
藍の甘えた声に、自分でも意外なほどドキドキしていた。誤魔化しながら、心を落ち着かせて、駿は車を発進させた。
「あたし…好きなのかな」
「……何が」
藍は駿の言葉に思わず頭を叩いた。
「先生のこと」
「はぁ!!?」
「…………」
重たい雪が降り始めた。道は緩やかな登り坂に入り、エンジン音が藍の沈黙を際立たせていた。路面の状態が悪く、1時間半で藍のアパートまで着くかどうかはあやしい。
「…調子悪くなったら言えよ」
「ありがと…。あの…」
「もう言うな」
赤信号の明かりが見えると、駿は俯いた藍の顔を見た。やはり冷えたせいか、藍は疲れの色が見えていた。
「ごめんなさい」
「それは俺のセリフだ。今日は遅くまで悪かった…」
「そんなことは…」
駿が気遣って連れてきてくれたことは、それだけで嬉しかった。たぶん、もう柊一のことには触れてほしくないのだろう。藍はそう思った。
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