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大学の構内──そのエントランスで、濃いグレーのスーツに紺のネクタイを締めた男性が、エンタシスに寄りかかり、腕を組んでいた。
「柚ちゃん!」
男性は柚子の姿を見つけ、手を上げた。
「あれ?諸見先生…」
傍にいた友人と別れた柚子は、柊一がこの場にいることを不審に思って、駆け寄った。
「先生、愛媛に行ったんじゃ…」
「藍がいないんだよ!」
柊一は落ち着かない様子で辺りを見回した。柚子には状況がのみ込めない。
「藍は大学には来てないんだな…?」
頷く前に、柊一は柚子の手を引っ張って行った。
「ついてきてくれないか」
時計の針は午後4時を回っていた。足早にガラス張りの玄関を出ると、柊一は外に駐車していた車に乗り込み、柚子も急いで助手席に乗った。
車が発進され、柚子は改めて柊一の顔を見た。今までに見たことのない、恐れの表情だった。この人は一体、何を考えているのだろう。
「柚ちゃんは心当たりは無いか?」
「ええと…昨日会いましたけど、1人で出かけてしまって。玄関でずっと倒れてたのに…」
「倒れた!?」
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