失踪

4/8
前へ
/112ページ
次へ
  「え…?先生ご存知じゃなかったんですか?昨日は箏のレッスンだって…」 「そうだな……」 「……藍は、先生の所に行ったんじゃなかったんですね」 察しのいい柚子は、そう言った。 柊一の焦りの表情は変わらないまま、景色が飛んでいった。国道に出て、ようやく街を出た。いつもの穏やかな柊一の運転ではなかった。 「先生、落ち着いてください…何があったんですか?」 「すまないが柚ちゃん、一刻を争う事態になってしまったかもしれない」 柚子の心臓は嫌な予感に怯え、激しく高鳴った。藍は柚子の一番古い親友だ。 「…俺の責任だ。すべて…」 赤信号は、色とりどりの車は、時が止まったように静かだ。 「あいつを管理しきれなかった。……失格か」 「管理…?」 柊一の最後の言葉が、よく聞こえなかった。  
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加