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「諸見先生!叱ってください、このお調子者!」
柚子はにやにや笑いながら藍を羽交い締めにした。本人は驚きが覚めず、されるがままだ。
彼は諸見柊一、藍の師匠である。
「まさかアレは先生が指導を…!?」
「お前な…俺1人、調弦がバシッと合ってたって、何十人が狂ってたら消されるに決まってるだろうが」
「何十人!?なんでそんなに大人気なの!?邦楽なんて若い人にあんまり興味持たれないのに…」
「先生、イケメンだからじゃない?」
耳元で柚子がささやく。
あからさまに怪訝な顔をする藍に、柊一は頬をつまんだ。痛い…!痛すぎる!!
「なにか文句が?」
「あいあへん(ありません)…!」
「よろしい」
柊一は今年の8月で29歳になる。細身で足が意外に長く、もうすぐ三十路とは思えない。背の低い藍が並ぶとかなり情けなくなる。
見た目は確かにいいが、レッスンでは鬼だ。あのサークルだってきっと、柊一の鬼が現れ始めたら脱退者続出に決まっている。
だがそんな柊一は…謎が多すぎるのだ。
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