音楽

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  (何を考えているんだろう…) 悲しいことや重くて1人では抱えきれないものを、彼は背負っている気がした。柊一だけの特別な思いを抱えて、1人で生きている…背中がそう語っていると藍は思った。 (そもそもあの歳で結婚もしないで、彼女もいないなんて…変なのよね) 藍はわざわざ大学まで自分を迎えに来た柊一を思い出した。木曜日は柊一に稽古をつけてもらう日なので、午前中に講義が終わるように時間割を組んでいる。 これまでも、柊一が自分から車で迎えに来ることがほとんどだ。理由はわからないが、車内で大して会話もしないし、とにかくレッスンでは鬼なので、とても自分に気があるとは思えない。 ぼんやりしたままの柊一を放っておいて、黙って1人、箏に向かった。象牙でできた琴爪で、ポロンと和音を弾いてみる。 ふと顔を上げると、柊一の方の譜面台には見慣れない楽譜が乗っていた。手に取ると、表紙に柊一の整った字が書かれており、彼が作曲したものだとわかった。 藍は何気なく、箏に触れた…。  
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