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調弦はかなり高音で、同じフレーズの繰り返しが多い。まるでピアノを弾いている感覚。左右の手が違った動きをする。
やがて流れるようなメロディになり、海の底にいて悲しみに暮れている人魚を想像させた。
──潮騒、風の囁き、静かに波を打つ海、そして満天の星空。
「気に入った?」
いつの間にか、柊一がこちらを見つめていた。曲に入り込み過ぎた藍は、恥ずかしくなって少し顔を赤らめた。
「邪魔しないでくださいよ。まだ終わってないのに」
柊一はにこにこしながから箏の傍に座った。丁度、藍と向かい合う形になった。
あの鬼が、笑っている。
「実はタイトルがまだ決まってなくてな」
パラパラと楽譜をめくると、最後の白紙に『Pinwheel』と書いてあった。
「これ、タイトル候補ですか?」
藍はその文字を指しながら言った。他は雑に消されていて読めない。
「それはまぁ…候補というか…」
柊一は頭を掻いて苦笑した。
ずるい。人に教える時はものすごく厳しいのに、こういう時は少年みたいだ。でも…
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