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「――咲くん、お願いがあるの」
「はい、なんですか?」
「あたしと一緒に、真弘のところへ行ってもらえないかしら」
真弘に会えば、きっとわかる。
「真弘?」
「あたしの婚約者よ」
咲は、なるほど、と、理解して、首を縦に振った。
「わかりました!行きましょう!」
千鶴の案内で、2人は真弘の勤めている会社へ向かった。
しかし、受け付けで聞くに、真弘は長いこと会社に出勤していないらしい。
そこで今度は、真弘の住むマンションへと向かった。
321号室。
ここが、真弘のいる部屋。
咲は、インターホンを鳴らした。
少しして、インターホンを通じて声がした。
「……誰ですか?」
「あっ、すいません。俺、水上咲って言います。あの、舞川千鶴さんのことで……」
「そうなの。開けて、真弘」
「……」
千鶴がしゃべるなり無言になって、しばらくして、鍵の開く音がした。
ガチャリとドアが開き、2人の前に姿を現した真弘はひどくやつれていて、生気すら感じられなかった。
「真弘……?ちょっと、どうしちゃったの?」
真弘は何も言わず、2人を招き入れた。
咲は一礼し、靴を脱いで上がった。
さすが高級マンション。
廊下が長い。
途中、線香のにおいが鼻についた。
臭いが増して、強くなった廊下の途中で、真弘が立ち止まった。
そして、すぐ左のふすまを開けると、その先の和室には―――
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