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桜並木が美しい4月のある日。
羽柴葵(はしばあおい)は、周りで楽しそうに笑っている新入生。
それらには目もくれず、ただ一人、並木の中に立っている一際大きい桜をじっと、見つめていた。
―綺麗……。母さん達、喜びそうだなぁ。
「綺麗だなぁ……」
誰に言う訳でもなく、一人桜を見上げ、呟いた。
「ほんとに、綺麗だな」
「え……?」
自分一人しかそこにいないと思っていたから、突然降ってきた声にびっくりして目を見開く。
「やっぱ入学式には桜だよな。
お前もそう思わない? 」
同意を求められて、軽く顔をのぞき込まれるが、固まったまま、相手がいる右の方向に顔を向けた。
そこには、自分と同じ制服に身を包んでいる青年。相手の身長がかなり高いせいで、見上げなければ顔が見えない。
「お前も、新入生だろ?」
はにかんで、微笑んだ青年に瞳を奪われた。
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