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私が雨なら、彼は太陽だろうか。唯一私の「雨の鑑賞」を邪魔する彼。私の母も姉も雨の降る日は、徹底的に私を放っておいてくれるというのに。
「…おーい、起きてよ」
一度目の彼の声は無視。私はそのまま健やかなる寝息を続ける。
「おいってば」
二度目は寝返りをうつ。さも煩わしそうに呻き声をあげて。
「…5、4、3、2、1…」
そのうちカウントダウンが始まる。この頃には私も布団の中でしっかりと目を開け、次の彼の攻撃に備える。
「起きろー!」
雄叫びと共にズシンと衝撃が布団越しに伝わる。重さはさほどない。とは言え、五歳の息子に手加減という文字は存在しない。
「…もう。痛いじゃない」
私はしぶしぶといった体で起き上がる。
「雛子が悪いんだ。何回言っても起きないから」
生意気だ、と思う。でも私の一番大切な人にもそっくりなので怒れない。むしろ唇が緩んでしまう。
「なんでにやにやしてるの?」
息子が私の顔を覗き込む。
「なんでもない。武流にはまだ教えない」
「ふうん…」
すぐに武流はむくれる。その尖った唇も、膨らませた頬も、愛おしくてたまらない。
そっぽをむいたままの息子の背中に擦り寄り、額をつける。
「ねぇ、デパートにいこうか」
「…今すぐ?」
「うん。生ジュース飲みに行こう」
「中野屋の蜜豆も食べたい」
「いいよ」
もう武流は怒っていない。私から離れると、クローゼットから自分の帽子と私の洋服を取り出す。
武流の気に入りのやつだ。大きな花柄で、色は優しいオレンジ色。『太陽のスカート』と武流は呼んでいる。
「早く行こう!」
もう玄関で靴を履き終えたらしい武流が私を呼んでいる。
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