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はじまりの雨
雨の音がする。ぽつりぽつりと窓をただきだし、やがてざあざあと。
私は雨が好きだ。私の内面をも洗い流すかのように激しく降る雨はことさらに好きで、梅雨が明ける前の真っ暗い雲を見上げては地面から立ち上る湿ったにおいに鼻孔を広げ、雨を待つ。やがて雷と共に大粒の雨が、私の頭から足先まで濡らして服の色をかえてゆく。
しとしとと降り続く雨も勿論愛していて、そんな日は前日から用意していた甘い香りのする菓子と古いビデオテープをベッドに持ち込み、雨の気配が充満した部屋でこころから寛ぐのだ。ビデオはもう何度となく観ていて、台詞の一つ一つ、女優な仕種や表情までしっかりと頭に入っている。この、少し陰のある女優は雨の降る空気にしっかり溶け込み、私の目的である「雨の鑑賞」の邪魔を決してしない。やがて、私は雨に包まれて深い眠りに入ってゆく。
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