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「うぐぐっ」
廊下から教室を不審に覗くこの男、名は友井 桜。
女の子みたいな名前というのがコンプレックスである。しかし、顔は悪くなくむしろ良い方である。
本人も自覚しているのだから腹立たしいこの上ない事であるが……。
彼は今、絶賛片思い中である。相手はクラスメイトの雪田 美優。
惚れたきっかけは他愛のない事であった。彼女の持つ容姿がピンポイントだったというのもあるが、今まで気にしていた名前を格好いいと彼女が褒めてくれたのだ。
それだけで彼はノックアウト。惚れてしまったのだ。
そして彼は教室で男友達と喋る彼女、美優を見て拳を作り唸っていたのだ。
彼は今時の高校生とは思えない程、シャイで内気であった。
隣の席ということでよく、美優が話し掛けて来るのだが、素っ気ない態度を取ってしまう。
それさえなければ恋は実りそうなのだが、元々女子が苦手な桜には克服できそうになかった。
しかし、そんな桜は昨日、決断をした。
今日、美優に告白をすると。
既に放課後に予約を取ってあり、今日過ごした午前中の授業はずっと心臓がバクバクと鼓動を立てて、桜を緊張させていた。
午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響き桜は次々と教室に戻る生徒らに紛れ教室に入って自分の席についた。
「うぐぐ」
どうにも先程、美優と男子が話していた話の内容が気になり声を上げる。
「どうしたの桜君?」
桜の様子が気になり話し掛けて来たのは彼のハートを射止めているエンジェル、雪田 美優であった。
「ななっなっ、なんでもないよぉ?」
桜は変な噛み方を繰り出すと語尾のトーンを跳ね上げる。
「顔赤いよ?お熱があるんじゃないかな?」
対する彼女は静かで綺麗な声で問う。
そして、細くて折れそうな白い手を桜の額に当てる。
「う~ん。お熱はないみたいだね」
椅子から体を持ち上げ右手の桜の額と左手の自分の額を比べる。ニコッと笑む彼女。
整った人形みたいな顔から零された笑みを受けとった桜は顔をどんどん赤く染めて対には爆発した。
「大丈夫桜君?」
大きく綺麗な瞳を揺るがし心配そうな表情で桜を見る美優。
「だっ 大丈夫大丈夫」
にやける顔を必死に直しながら桜が言うと美優は何とか納得した。
(あぁ……心配そうな表情を俺に向けてくれた)
それだけで幸せになる桜であった。
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