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「すみません」
「どうした?」
川越や拘置所のオヤジなら、きっと“なんだ?”と偉そうに返事をしたと思うが、バスの中のオヤジは優しく返事をしてくれた。
後から知ったが、移送の時は市原から迎えに来ていたそうだ。
従って、バスの中のオヤジは市原の職員ということだったらしい。
「手錠がゆるいんですけど…」
「ゆるいってどんな風に?」
「引っ張ったら抜けそうです。」
私がオヤジに伝えるとオヤジはバカ笑いをした。
「長いことこの仕事してて“きつい”って文句言われたことはあるけど“ゆるい”って言われたのは初めてだなぁ」
バスの中に笑いが起こった。
私は手錠を締め直してもらい、オヤジにお礼を言った。
「おまえ 面白いな。松浦って名前、覚えておくよ」
そう言われ、このオヤジは市原の職員なのかもしれないと思った。
私は今までと違う暖かい空気を感じ、これからの生活に期待を持った。
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